2015年 06月 20日
ソノニ |
冷水のシャワーで目を覚まし、俺にしては割と小ざっぱりした格好で家を出た。
セントラルバスステーションの斜め向かいにある警察署までは、
歩いて10分とかからない。
中東の五月の朝の黄色い太陽がテルアビブ南部の埃っぽい空気をつらぬき寝不足の俺の目にしみた。
俺の住むアパートは移民の家族が多く暮らす地区の
公立学校の真前の廃墟のような三階建てのぼろビルの一室だ。
部屋を出てから警察署までの通りで、
今俺の歩いてきた方へ寝ぼけ眼をこすりつつ登校してゆく
さまざまな肌の色をしたユダヤ人ではない子供達とたくさんすれ違った。
アジア系の子供たちには、同伴する親御さんたちもいた。
道路工事のために普段より一層狭められている学校近くの細い通路は、
俺にこういったことを観察させた。
俺もまたこの子供達のように、
「社会科」の授業へと通わせられているようだった。
対応にでた警察官は俺の話がよくわからないまでも、
とにかく俺のいう通り、
署の電話から昨晩電話してきた南部の警察署長の携帯電話に連絡させてくれた。
「もしもし。言われた通り最寄りの警察署に来ましたが。」
受話器を窓口の警察官に渡すと二人は何やらもぐもぐ話していたが、
どうやらこの警察署では俺の「問題」は処理できないということはすぐにわかった。
タライ回しはこの国では慣れっこだった。
俺は指示された通り、
そこから徒歩で30分ほどの離れた別のもっと大きな警察署へてくてくと歩いていった。
「クソ、チャリがあったらな。」
フライトまでに10時間ほどあったが、
荷造りや他の雑多な用事がいろいろあったので、
俺は一週間前に遭った自転車の盗難を思って舌打ちをした。
だが、心の底ではなんとかなるだろうと確信はあった。
最近はいつもそうだ。
様々な事態においてあまりテンパることがなくなった。
最終的にはなるようにしかならないという経験則からか。
それとも少しは歳をとって俺なりに観念がついたのか。
しかし、
この街で自転車を盗まれたのは少なくとも五、六回目だろう。
特にテルアビブ南部では自転車の盗難が激しい。
その日をやり過ごすために血眼になったジャンキーか、
仕事にあぶれた北アフリカ系の移民難民、
あるいはアラブの組織的窃盗集団による仕業か。
夜間の自転車路上放置はほとんどノーチャンスだ。
従来の鎖やワイヤーのロックシステムは見事に切断され、
サラッときれいに平らげられてしまう。
で、
ドイツだかどこかで発案された「クリプトナイト」とかいう
鋼鉄製U字型のロックシステムが好評で、
こいつには自転車泥棒も歯が立たないらしい。
俺も自分の持っている中古の自転車よりも値段の張る
この「クリプトちゃん」さまさま、
今回の自転車とは随分と親交を深めていたのだが、
先週末友人に誘われて行ったパーティでべろべろに酔っ払って帰ってきて、
アパートの庭にそのまま放置しておいたので、
最近仲睦まじくなったS子と翌朝目覚めた時には、
そのクリプトちゃん共々消えていた。
自転車そのものよりも、
最新型のロックシステムが一緒に盗られたことが残念に思えた。
(つづく)
by ramondejapon
| 2015-06-20 22:31
| イスラエル